東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)262号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について検討する。
1 第一引用例には、「脱穀装置の機体の進行方向に対する側方に沿つて穀粒タンクを隣接したコンバイン」が記載されていることは当事者間に争いがないが、原告は、第一引用例には穀粒タンクの底部にスクリユーコンベヤが存在する旨の記載はないし、右存在を示唆する記載もないから、第一引用例には、「穀粒タンクの機体巾の一定位置の底部には機体の進行方向に沿わせてスクリユーコンベヤを横架し、このスクリユーコンベヤの端部にはアンローダを連設したコンバイン」が記載されていると認定し、本願考案と第一引用例記載のものとは右記載のようなスクリユーコンベヤを設けた点で一致するとした審決は、第一引用例記載のコンバインの構成についての認定を誤り、本願考案と第一引用例記載のものとの相違点を看過した旨主張するので、この点について検討する。
成立に争いのない甲第三号証(昭和四九年実用新案出願公告第一二〇五〇号公報)によれば、第一引用例記載の考案は昭和四五年四月二七日実用新案登録出願、昭和四九年三月二三日出願公告されたものであり、第一引用例には、同考案の目的として、「コンバインのアンローダに関する従来の問題点に対処して、該アンローダの傾斜角度の調節を容易且つ安全に行なうことができるようにした、当該コンバインのアンローダ支持装置に係り、内蔵するつる巻きバネの復元力で自動的にワイヤを巻き取り得るようにしたワイヤ巻取り機構を用いて、これから引き出したワイヤの先端をアンローダの適所に止着せしめアンローダの倒れようとする力と該機構のワイヤを巻き取ろうとする力とがほぼ釣り合うようにしたものである。」(第二欄第二ないし第一二行)と記載され、穀粒搬送装置に関して、「図に於て1はコンバイン本体で、これの側部には穀粒タンク2が備えられ、3は先端に吐出口4を有するアンローダで、その内部には穀粒移送用のスクリユー翼(図示せず)が収められているものとする。然してこのアンローダ3は、穀粒タンク2の底部から突出した排出筒5の末端にその下端で接続され、」(第二欄第一四ないし第二〇行)と記載されていること(別紙図面(二)参照)、同引用例記載の第1図、第2図には、穀粒タンク2の底部末端に穴があけられ排出筒5が取り付けられているものが示されていることがそれぞれ認められ、右引用例の記載にいうスクリユー翼は、技術用語の通常の語義に従えば、スクリユーコンベヤと同義であると解されるが、同引用例には、穀粒タンク2の底部にスクリユーコンベヤが存在する旨の明示的な記載はない。
ところで、第一引用例記載のコンバインにおいて、穀粒タンク2に収容されている穀粒をアンローダ3の先端にある吐出口4から排出するためには、その前工程として、穀粒タンク2の進行方向前方部分(別紙図面(二)第1図左側)から穀粒タンク2の底部末端に取り付けられている排出筒5にかけて何らかの搬送手段を設けて、穀粒を排出筒5まで搬送する必要があることは、その構造上明らかである。そして、つる巻状スクリユーから成るスクリユーコンベヤは、そのスクリユーの回転によつてばら荷状の物質を移動させるため慣用的に用いられる技術であり、しかも、成立に争いのない乙第二号証の一ないし五によれば、昭和四五年九月社団法人日本農業機械化協会発行、「ポケツト便覧Ⅴ普通型コンバインとライスセンター」には、コンバインメーカーである日本車輛製造株式会社が従来から製造、販売していた普通型コンバインを基本形とし、セミクローラでは作業が不可能な湿田、超湿田でフルに作業ができることを目的として設計した日車NC三〇二Sコンバインに関する説明の一部として、グレンタンク(第一引用例記載のものの穀粒タンク2に相当する。)に収容されている穀粒を排出オーガ(同アンローダ3)の先端にある排出口(同吐出口4)から排出するため、その前工程として、「グレンタンク内下部には、粒を排出オーガへ送り出すためのオーガがあり、」(第九八頁第二六、第二七行)と記載され、図―10動力伝達系統図には、グレンタンク排出オーガ及びグレンタンク下部オーガとしてスクリユーコンベヤを用いたものが表示されている(第一〇五頁)こと(したがつて、当該文献にいう「オーガ」はスクリユーコンベヤを用いた穀粒の排出、搬送装置と同義に用いられていること)が認められ、右事実によれば、コンバインにおいて、穀粒の排出装置のみならず、これに連設する穀粒タンクの底部の搬送装置にスクリユーコンベヤを採用したものは第一引用例記載の考案の実用新案登録出願当時当業者には広く知られていた技術であると認められること(もつとも、右著書は第一引用例記載の考案の実用新案登録出願後に出版されたものではあるが、その間僅か五か月であり、前記のとおり、右著書は、従来から製造、販売されていた普通型コンバインを基本形として設計した前記コンバインを説明したものであるから、右著書の出版が右出願後であるからといつて、右認定を妨げるものではないものというべきである。)、ならびに、前記のとおり、第一引用例記載のコンバインにおいて、アンローダ3の内部には穀粒移送用のものとしてスクリユーコンベヤが用いられていることをあわせ考えると、第一引用例記載の考案が、前記のとおり、コンバインのアンローダ支持装置に係るものであつて、穀粒の搬送装置についてはこれを考案の要旨としていないため、穀粒タンク2の底部にスクリユーコンベヤが存在する旨の明示的な記載はないけれども、同引用例記載のコンバインにおいて用いられる穀粒タンク2の底部の搬送装置はスクリユーコンベヤであるとみるのが技術常識に適うものと認めるのが相当である。
したがつて、第一引用例には、「脱穀装置の機体の進行方向に対する側方に沿つて穀粒タンクを隣接し、穀粒タンクの機体巾内の一定位置の底部には機体の進行方向に沿わせてスクリユーコンベヤを横架し、このスクリユーコンベヤの端部にはアンローダを連設したコンバイン」が記載されており、本願考案と第一引用例記載のものとは右の点で一致するとした審決の認定、判断に誤りはないものというべく、審決は第一引用例記載のコンバインの構成についての認定を誤り、本願考案との相違点を看過した旨の原告の主張は理由がないものというべきである。
2 本願考案では、籾タンクの外壁は機体の外側方に向け伸縮自在となして脱穀装置から取り出す籾を籾タンクに収容するようにしたのに対し、第一引用例に記載されたものではその構成を備えていない点で相違するところ(この点は当事者間に争いがない。)、原告は、右相違点は第二引用例に記載されたものに基づいてきわめて容易に想到し得るものとした審決の認定、判断は誤りである旨主張するので、この点について検討する。
成立に争いのない甲第四号証(米国特許第三、〇八〇、一八七号明細書)によれば、第二引用例記載の発明は、「実のなつたつる植物のような比較的ばらばらで、ぎつしり詰つていないもの、あるいはトラツクに最初に積む時本来の性質上莫大な空間を占める圧縮可能なものを運搬するために特別に設計されている新規なトラツクボデイの構造に関する。」(同明細書第一欄第一〇ないし第一六行)ものであり、同引用例には、農場等で使用される農業用の車両の一種であるトラツクにおいて荷台の外壁が車体(本願考案における機体に相当する。)の外側方に向け伸縮自在となしたものが記載されていること(第二引用例にトラツクにおいて荷台の外壁は機体の外側方に向け伸縮自在となしたものが記載されていることは、当事者間に争いがない。)、同引用例記載のトラツクは、容量を増加する必要がある場合には、荷台の外壁(左右側壁10、12、後壁7)を外方に開いて荷台の容積を拡張した状態で荷を積載した後、右外壁をもとの垂直な状態に戻すことによつて荷を圧縮してぎつしり積み込むものであること、しかし、同引用例記載のトラツクにおいて、左右の側壁10、12の前端には横へ動く三角型部材75、77が右側壁に対し直角の状態で固着され、その後端には三角形部材80、81が枢着され、右三角形部材80、81の先端縁にはローラー90、92が取り付けられていて、油圧シリンダー30、32のピストン棒30a、32aを伸長することにより、右棒の先端に一端が接続し、中途において側壁10、12、後壁7に取り付けられて延びている左右のワイヤーロープ100、102を緩めて、右各壁を開放して拡げることによつて、その開放程度に応じて三角形部材が(そのうち80、81は後壁7の内面上を滑りながら)外方向に拡がる構造になつていること(別紙図面(三)参照)、したがつて、油圧シリンダー30、32に給油することを止めて、ピストン棒30a、32aが中途で止まつた状態にすると、側壁10、12、後壁7は途中まで開放して停止し、完全には開放されていない任意の位置に右各壁は保持されるものであること、以上の事実が認められる。
ところで、コンバインも第二引用例記載のトラツクも農業用の車両という点で一致し、また、コンバインにおける籾タンクも第二引用例記載のトラツクの荷台も農作物等の収穫物を収容するものであるという点で共通していること、第二引用例に記載されたトラツクの荷台の外壁は車体の外側方に向け伸縮自在となしたものであり、しかも、前記認定のとおり、収容する荷の量に応じて荷台の容量を調節することができるものであることからすると、第二引用例記載のトラツクにおける荷台の外壁構造を第一引用例に記載されたコンバインにおける穀粒タンクの外壁構造として採用して本願考案のように構成することは、当業者においてきわめて容易に想到し得ることと認めるのが相当である。
そして、成立に争いのない甲第二号証(本願考案の昭和五八年四月二〇日付手続補正書)によれば、本願考案は、「籾タンク1内に籾を収容しきれぬ場合はその外壁を機体の外側方に向け適宜の長さに伸縮して籾タンクの容量を収穫した籾の容量に応じて調節するので籾タンクの容量を徒らに大きくする必要がないから機体がコンパクトになり、また脱穀装置2に隣接する籾タンク1は機体の進行方向に沿うから、機体の進行方向に沿う籾タンクの長さを比較的大きく確保できるので、籾タンクの容量が大きくなるばかりでなく、その外壁を僅かに伸縮しても籾タンクの容量を大きく調節できると共に伸縮する籾タンクの外壁をできるだけスクリユーコンベヤ9に接近させられるのでタンク内の籾を迅速に排出でき、その上スクリユーコンベヤ9は機体巾内における機体の進行方向に沿つて一定位置に固定し籾タンクの外壁のみが機体の外側方に向け伸縮するので、籾タンク1の容量が変更してもスクリユーコンベヤ9およびその端部に連設する揚穀筒10の位置は移動する必要がないので、その構成を簡易化できるのみならず、籾タンクの外壁の位置が変更しても常時スクリユーコンベヤ9により籾を機外に取出すことができ、かつ籾タンクの外壁が機体の外側方に伸長しても外壁は脱穀装置2の反対側の既刈地上にのぞむので、立毛に接触するおそれなく、しかもスクリユーコンベヤ9および揚穀筒10は刈取後の跡地の機体巾内にあるのでその伝動装置に穀稈が巻き付くことなく、また籾タンク1の外壁のみが伸縮自在に移動しスクリユーコンベヤ9および揚穀筒10は前記外壁の移動する範囲の圏外にあるので、籾タンクの外壁の伸縮自在の移動を妨げず、その上本考案によるときは伸長した籾タンクの外壁を縮小すると、路上を走行したり、格納するとき機体全体の容積を縮少するので場所をとらず便利であり、また圃場のきわを刈取るときも籾タンクが圃場のきわに接触しないので、完全に刈取作業を遂行できる」(同手続補正書第四頁第一五行ないし第六頁第一〇行)という効果を奏するものであることが認められるが、第二引用例記載のトラツクにおける荷台の外壁構造を第一引用例に記載されたコンバインにおける穀粒タンクの外壁構造として採用し、適宜設計変更を加えれば、右と同様の効果を奏するものと認められるから、本願考案の前記効果は、第一引用例及び第二引用例記載の技術内容から予測し得る程度のものであることは明らかである。
原告は、第二引用例記載のトラツクの荷台は運搬すべき荷を積むためのものであるのに対し、本願考案に係るコンバインの籾タンクは脱穀装置より少しずつ排出される収穫中の籾を圃場を散逸しないように一時的に貯留するためのもので、両者は物を収容する目的を異にしており、また、構造上も、本願考案に係るコンバインの籾タンクは、その側方に刈り取つた籾を脱穀し籾タンクヘ供給するための脱穀装置を備えているのに対し、トラツクの荷台にはそれがない点で相違しているから、審決が、トラツクとコンバインを技術的にみて物を収容して運搬する車両として共通するとした点は誤りである旨主張するが、前記説示したとおり、本願考案に係るコンバインの籾タンクと第二引用例記載のトラツクの荷台とは、農業用車両の農作物等の収穫物を収容する装置であるという点で共通していることは否定できないところであり、また、コンバインは脱穀装置を備えるのに対し、第二引用例記載のトラツクの荷台にはそれがない点で相違するにせよ、第二引用例に記載されたトラツクの荷台は外壁を機体の外側方に向け伸縮自在とするようにし、それにより、前記認定のとおり、収容する荷の量に応じて荷台の容量を調節することができるものである点においても、本願考案に係るコンバインの籾タンクの外壁構造と共通することは明らかであり、審決が第二引用例記載のものを引用したのも、そのトラツク荷台が右のような共通する構成を有する点においてであるから、原告の右主張は理由がない。
また、原告は、第二引用例記載のトラツクの荷台の外壁は、荷を締め付けてぎつしり積み込むために伸縮するためのものであつて、本願考案における籾タンクの外壁のように、荷の量に応じて荷台の容量を調節する目的で伸縮するものではない旨主張するが、前記認定のとおり、第二引用例記載のトラツクの荷台の外壁は、荷の量に応じて荷台の容量を調節する機能を営むことができるものであつて、本願考案における籾タンクの外壁と相違せず、原告の右主張も理由がない。
以上のとおりであつて、本願考案と第一引用例記載の考案との相違点は、第二引用例に記載されたものに基づいてきわめて容易に想到し得るものとした審決の認定、判断に誤りはない。
以上の次第で、原告主張の審決取消事由は理由がないものというべきである。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として、これを棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
脱穀装置の機体の進行方向に対する側方に沿つて籾タンクを隣接し、籾タンクの外壁は機体の外側方に向け伸縮自在となして脱穀装置から取り出す籾を該籾タンクに収容し、この籾タンクの機体巾内の一定位置の底部には機体の進行方向に沿わせてスクリユーコンベヤを横架し、このスクリユーコンベヤの端部には揚穀筒を連設して成るコンバインにおける籾タンク。
(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面 (一)
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